医療機関の給与計算(控除をするときの注意点)

医療機関の給与計算(控除をするときの注意点)

クリニック運営をするうえで避けられない仕事が『給与計算』です。

給与計算の仕組みは、複雑でミスをすると従業員の不信感につながってしまいます。

給与計算をする際は、最低限の知識を持っておくことが必要です。

そこで、今回は医院クリニックの給与計算を、複数回に分けて解説していきます。

第8回目は、総支給額から控除を行うときの注意点についてご紹介いたします。

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健康保険料等、厚生年金保険料控除時の注意点

給与から、健康保険料等及び厚生年金保険料(以下合わせて「社会保険料」といいます。)を控除するときの注意点について紹介します。

  • (1)社会保険料の月割計算はしない
  • (2)退職日が月末であればその月の社会保険料が発生する
  • (3)社会保険料の支払いは翌月徴収、翌月納付
  • (4)給与の支払いがない場合でも、社会保険料を控除しなければならない

(1)について

まず、社会保険料を控除するときには、月割計算を行わず、常に1ヶ月分の保険料を控除します。

社会保険料は各月単位で計算が行われていて、「資格を取得した月」から「資格を喪失した月の前月」までの保険料が徴収されることとされています。

例えば、従業員が新たに就社する場合。その入社が月の途中や月末であっても、資格を取得した月から保険料が発生するので、1ヶ月分の保険料が発生します。

(2)について

退職日が月末の場合は、退職日の翌日が「資格喪失日」になります。

上記(1)に書いてあるように、「資格を喪失した月の前月」まで社会保険料はかかるため、退職日が月末の場合にはその月の保険料が発生します。

一方、退職日が月末以外の場合は、退職をした月の社会保険料は発生しません。

(3)について

3つ目のポイントは、社会保険料の支払方法についてです。

社会保険料は健康保険法及び厚生年金保険法に、その月の社会保険料は翌月徴収翌月納付と定められています。

つまり、毎月15日締で25日払いの会社で、4月1日に従業員が入社した場合、

この従業員の保険料は、翌月5月25日支給の給与から控除スタートとなります。

(4)について

最後に、給与の支払いがない月でも社会保険に加入していれば、保険料を控除しなければなりません

例えば、従業員が病気などで長期の入院をしている場合、出勤がないので給与が発生しません。

そういった場合にも、社会保険へ加入をしていれば保険料の支払いは発生してしまいます。

よって、そのような場合は、従業員負担分の保険料を事業所がいったん立て替えて、復職したのちに徴収を行うといった方法が一般的にとられています。

雇用保険控除時の注意点

給与から雇用保険料を控除するときの注意点について紹介します。

  • (1)通勤手当も雇用保険料の計算に含まれる
  • (2)業種によって保険料率が異なる
  • (3)65歳以上の従業員も雇用保険の対象となる

(1)について

雇用保険料の計算では、給与の「総支給額」に保険料率をかけます

所得税の計算では、通勤手当を除いた金額をベースに算出しますが、

雇用保険は通勤手当を含んだ総支給額で計算を行います。

このように、雇用保険と所得税では計算対象となる給与が異なりますので、注意が必要です。

(2)について

次に、雇用保険料率は業種によって異なっており、以下のようになっています。

平成31年雇用保険料率 従業員負担 事業主負担 合計保険料
一般の事業 3/1000 6/1000 9/1000
農林水産・清酒製造の事業 4/1000 7/1000 11/1000
建設の事業 4/1000 8/1000 12/1000

ほとんどの事業は「一般の事業」に当てはまりますが、農林水産清酒製造業及び建設業の事業所は、雇用保険料率が異なるので注意してください。

(3)について

近年の雇用保険法改正により、65歳以上も雇用保険の対象となりました。

これまでの取扱いでは、毎年4月1日現在で満64歳以上の者は4月以降の雇用保険料が免除されていました。

しかし、平成29年の雇用保険法改正により、65歳以上も雇用保険の対象となることになりました。

よって、65歳以上であっても雇用保険の加入義務を満たす従業員は、雇用保険料を給与から控除しなければなりません。

所得税・住民税控除時の注意点

給与から所得税及び住民税を控除するときの注意点について紹介します。

  • (1)所得税の扶養親族等の数え方に注意
  • (2)非常勤医師の所得税は「乙欄」で控除
  • (3)住民税は1回目の控除金額に注意

(1)について

1つめは、扶養控除等(異動)申告書で扶養親族等の数を確認するときのポイントです。

申告書に記載している扶養親族等の人数をそのまま利用しない場合があります。

以下に該当する際には、扶養親族等の数を加算して取り扱います。

  加算人数
給与等の支払いを受ける者が障害者に該当する 扶養親族等に+1
給与等の支払いを受ける者が寡婦または寡夫に該当する 扶養親族等に+1
給与等の支払いを受ける者が寡婦または勤労学生に該当する 扶養親族等に+1

給与等の支払いを受ける者の

配偶者または扶養親族が障害者に該当する

扶養親族等に+1

給与等の支払いを受ける者の

配偶者または扶養親族が同居特別障害者に該当する

扶養親族等に+2

上記に該当する場合、所得税の計算において源泉徴収税額表を使用するときには、扶養親族等の数に人数を加算して当てはめます。

(2)について

2つめは、非常勤医師の取り扱いです。

医院で勤務してる従業員の所得税計算では、源泉徴収税額表の「甲欄」を見て控除を行います。

しかし、所得税の控除において、「扶養控除等(異動)申告書」が提出されていない従業員の所得税は、税額表の乙欄で計算がされます。

扶養控除等(異動)申告書は「主たる給与等の支払者」に提出しなければならないものとされていて、週に一度だけ勤務をするような非常勤医師からは提出がされていないことが一般的です。

なぜなら、非常勤医師の多くは別に主たる勤務先があり、そちらに扶養控除等(異動)申告書を提出しているため、非常勤の勤務先には、扶養控除等(異動)申告書を提出しないのです。

「乙欄」は所得税の控除額が大きいため、誤って「甲欄」で控除を行ってしまうと所得税の納付もれが発生してしまいます。気を付けておきましょう。

(3)について

住民税は納付のスタートが6月からです。

この6月の住民税控除額ですが、端数処理の関係で、他の11ヶ月分と異なった金額になっていることがあります。

よって、単純に1年間の住民税は同じ金額だとして控除をしないようにしましょう。

そういった場合、控除もれや払いすぎが発生しますので注意してください。

【参考】
医療機関の人事手続についてはこちら
(労災保険と雇用保険をさらに詳しく)

いかがでしたでしょうか。

総支給額の金額から、控除項目を差し引くことで、最終的な手取金額が算出できます。

皆さまの医院経営にこのコラムをぜひ役立ててください。

 

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